「倉俣史朗はぼくらのあこがれだった」永井裕明
企画展「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」が開催されています。
期間は世田谷美術館で2023年11月18日から2024年1月28日まで、富山県美術館では2024年2月17日から4月7日まで、京都国立近代美術館では6月11日から8月18日までとなっており、巡回で開催される予定です。
倉俣史朗(1934-1991)は1953年に都立工芸高校木材工芸課程(現在のインテリア科)を卒業後、桑沢デザイン研究所リビングデザイン科に入学。後に、株式会社三愛(銀座4丁目交差点)に入社して宣伝課に勤め、その後独立してクラマタデザイン事務所を設立しました。透明感、浮遊感のあるインテリアは世界で高く評価され、作品は各国の美術館にも収蔵されています。
今回は、企画展のグラフィックを担当された永井裕明さん(1976年・D卒)に倉俣史朗の魅力と今回の仕事への取り組みなどについてお話を伺いました。
2023年12月6日 N.G.inc.(http://www.nginc.jp/)にて 杉原由美子(1992年・D卒)
——永井さんから見た倉俣さんの魅力はどんなところですか?
アイディア、デザイン力、ユーモアのセンス。
これは、文章を読んで知ったんだけど、なにかアイディアが浮かぶと借金をしてでもつくりたくなっちゃうんだって。普通はクライアントがいて、依頼があってからアイディアを出すものだけど、倉俣さんは先に現物を作ってしまう。自分も思いついたらすぐに描きたい、作りたいと思うことはあるから、そこにはすごく共感できる。
——展示されている作品の見所を教えてください?
倉俣さんの作品にはケレン、わざとらしさがない。それは、たぶんなんだけど、自分が見たいと思った物をつくっているからなんだと思う。見ているとすごくそういう気がする。
《変形の家具 side1》(S字にカーブしている高さ170cmのチェスト/1970年)
たとえば、「引出しが曲がっちゃったらどうかな?」と思ったらいてもたっていられず、すぐにつくりたくなる。それってクリエイターのあるべき姿だと思う。
はじめに仮説を立てる。それを形にするデザイン力がある。発想がかわいくて、デザインはシャープ。考えていることが軽やかだよね。
《ランプ(オバQ)》(1972年)
こんな風に、熱したアクリル板をランプに見立てた鉄球に被せてドレープをつくっている。これ(大)は量産だけど、こっち(小)は倉俣さんが自分で被せたんだ。
オバQは僕が務めていた事務所にもあったから、倉俣さんにも親しみを感じていた。20才くらいの頃、お使いでクラマタデザイン事務所に行ったことがあったけど、その時倉俣さんはいなくて会えなかったな。
《ガラスの椅子》(12mm厚の硝子板をフォトボンドで接着した椅子/1976年)
ガラスの椅子は三保谷硝子店の前社長が「画期的な接着剤ができた」と言って倉俣さんのところへ持って行って、そうしたら、倉俣さんはその場ですぐに図面を引いたそうだよ。「誰を座らせる?」という話になった時には「石岡瑛子を」と言う話になった、と三保谷硝子の前の社長がお亡くなりになる前に聞いたことがある。
三保谷さんは倉俣さんと一緒に仕事をしていて普段から仲も良い。だから「こんな物(接着剤)ができたから、倉俣さんに持っていったらおもしろいだろう」っていう感じだったんだろうね。倉俣さんには、信頼している腕の良い職人さんとのチームワークがあるんだよな。
《トウキョウ》(カラー硝子の破片が混入したテラゾー仕上げのテーブル/1983年)
「スターピース」というのがあって、これはコンクリートにいらなくなったカラーガラスの破片を埋め込んだもので、一時期、イッセイ ミヤケの店舗では床面なんかにも使われていた。今は環境問題で色の付いたガラスは少なくなってしまって、もうつくれないそうだよ。それから、この硝子には絶妙な配合の割合いがあるらしい。
《ミス・ブランチ》(造花の薔薇を透明アクリル樹脂に封じ込めた椅子/1988年)
代表作のこの椅子はいろんな要素を試してきて、その集大成なんだと思う。はじめは生きた花でなくてはだめだと思っていたらしいけど、造花で良いんだとどこかで気づいたんだって。倉俣さんはアクリルが出始めた頃、アクリルを多用して新しい世界を築いたんだよね。
——今回、永井さんは企画展のグラフィックを担当されています。この図録はとても素敵ですね。
《ミス・ブランチ》を所蔵している富山美術館のデザインを3年間担当していることがきっかけだったんだけど、倉俣史朗展の依頼は僕も嬉しかった。倉俣さんの世界を素直に表現しようと思って、図録、本のデザインにはアイディアもたくさん出した。これは少し予算オーバーだったけど、巡回する美術館(世田谷美術館、富山県美術館、京都国立近代美術館)でお金を出し合ってでも「これがいい」と6月にみんなが言ってくれて、この案はほぼ今の形。オフメタルにPantone 234 C | #A20067を一色刷にして、背表紙を丸背にすることで《ミス・ブランチ》の足の丸みを表現している。中の扉は倉俣さんがよく差し色に使う色にした。
巨匠たちの仕事をするのは緊張するけど、石岡瑛子展をやったときに腹をくくったところもあって、自分は出さずに、その人の世界を咀嚼して、素直に伝えるのが誠実なデザインじゃないかな。
倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙
世田谷美術館
開催期間:2023年11月18日(土)~2024年1月28日(日)
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00216
(リーフレットPDF)
図録はこちらからも購入することができます。
https://shop.asahi.com/category/ASAS10_3/BKTZ231301010.html