2019年D科卒 デザインを携えて進む同窓生たち-1

2019年D科卒の活躍を隔月でお届けします。違う学科、違う学年の人たちの、それぞれ違う世界での活躍が見えるのは、都立工芸同窓会の面白いところです。一方で、3年間共に過ごした同じクラスからも、そうとは思えぬほど多様な広がりが生まれています。
2019年デザイン科を卒業した筆者が、ともに3年を過ごした目線から、それぞれの世界に活躍を広げていく友人たちを取材しました。まだ卒業して日の浅いこの世代の活動の一端をお楽しみください。

岡野優子(2019・D卒)

デザイナー/松野文音さん

松野さんはいつもにこにこしている。不機嫌だったりつらそうにしているところをほとんど見たことがない。もともと朗らかなのか、人前で明るくいたいというプライドなのか、いずれにせよ本人も作るものもカラッとしていて楽しげだ。 
工芸高校デザイン科は立体から平面まで幅広く学ぶが、特に立体の素材への興味が強かった松野さんは、デザイン科を経て、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科に進学した。 
デザイン科の卒業制作では、同じ形でも素材によって印象が変わることの面白さを表現していた。よく手が動く人で、考えてから作るより作ったものをもとに考えるのが得意そうだった。工芸工業デザイン学科でインテリアを専攻した松野さんは、大学の卒業制作でも素材研究を行なった。ここでいう素材研究とは、日頃良く目にするようなマテリアルに普段とは違う使い方とか加工方法を施す事で、新たな魅力を見つけ、素材の新たな価値を見出す研究(実験)のこと。松野さんが卒業制作で使いたいと決めたのは「排水溝のネット」だった。
排水溝のネットというと、その用途や使われているシーンからはあまりきれいさを感じないかもしれない。そういった生活の中で持っているイメージや文脈から切り離して、その色や形と直に向き合ったときに、松野さんは排水溝のネットに繊細な美しさをみつけた。 
その美しさをどうやったら人に伝えることができるか、手を動かして色々な方法を探っていったなかで松野さんが見つけたのが、熱による圧着だった。プラスチックのもやっとした感触が、板にのってパリッとした平面になった。造形の繊細さ、グリッドの重なり合いから生まれるグラデーションが際立って見える。


排水溝ネットで試したさまざまな実験の様子 

排水溝のネットを知っている人は、自分が何気なく見過ごしていた美しさに驚くかもしれない。 この作品は、排水溝のネットというこの素材の文脈を知らない人の目に触れる機会を得た。世界最大級のデザインの祭典「ミラノサローネ」だ。 
松野さんは武蔵野美術大学として「ミラノサローネ」の若手デザイナー達(U-35)のエリア、サテリテに出展する機会を得た。語学が十分でなかったことへの悔いもあったが、海外の人からたくさんの感想をもらい、同世代の世界の若手の作品を見て刺激をもらってきたことは、大きな経験となり、モチベーションにもなった。 


完成した卒業制作 


ミラノサローネでの展示の様子 

これから松野さんは、分野にとらわれないデザイナーを目指しているという。色々な国の人と、色々なデザインに関われたら楽しいだろうなと思うそうだ。松野さんはよく人と仲良くなるので、籠って自分と向き合うよりも、どんどん外に出ていって、良いものを見つけて、国を超えジャンルを超え、ものづくりを楽しんでいくのだと思う。 

「2019年D科卒 デザインを携えて進む同窓生たち」次回は美術家の宮下恵理歌さんです